「ブランコのむこうで」(星新一)①

「ぼく」はいろいろな人間の夢を渡り歩く

「ブランコのむこうで」(星新一)新潮文庫

学校の帰り道に、
「もうひとりのぼく」に
出会った「ぼく」。
あとをつけていった「ぼく」は、
「もうひとりのぼく」に、
知らない家に閉じ込められてしまう。
でも、閉じ込められた場所は
知らない「家」ではなく、
知らない「世界」だった…。

そこは誰かが寝ている間に見ている
夢の世界なのです。
「ぼく」はその世界で、
いろいろな人間の夢を
渡り歩くのです。

それぞれの夢の主人公と
その夢を見ている実際の人物には
大きな隔たりがあります。
そこがこの作品の面白さです。
はじめに迷い込んだ世界の少年は、
実はぼくのお父さん。
動物を従えて自由に遊ぶピロ王子は、
実は病気で寝たきりの少年。
絶対的な存在の皇帝陛下の正体は、
ショボクレオジサン。

このあたりまでは
ファンタジー小説です。
ほのぼのとしています。
しかし中盤以降、
サスペンス的な要素が加わります。

見知らぬおばさんから
息子のマリオと間違えられた「ぼく」。
おばさんは事故で亡くしたマリオを
夢の中で懸命に探していた…。

行き先不明のバスに
乗り損ねてしまった「ぼく」と女の人。
現実世界では、その女の人は…。

白い霧に包まれた世界は、
実は催眠術にかかった人の見ていた夢。
その人が術から醒めたため、
世界は何もない空間へと変わる…。

そして最後に迷い込んだ世界は…。
恐竜が闊歩し、
火山が噴火する太古の世界。
それを夢見ているのは
生まれたての赤ん坊。
人は生まれたとき、
生命をさかのぼった
遙か遠い時代の夢を見ているという、
壮大な生命観。
もはやSFスペクタクルです。

もちろん、
「ぼく」は現実の世界へ帰ってきます。
ああ、やっぱり夢だったのか、
で終わらずに、
作者は現実の世界の大切さにも
しっかり触れています。
「あのざまざまな夢の世界も、
 この現実の世界があればこそなんだ。
 ここが、ずっと
 ぼくの生きてゆく世界なんだ…。」

男の子版「不思議の国のアリス」かなと
思いながら読み始めましたが、
どうしてどうして、
大人でも十分に楽しめる、
いや、
十分に考えさせられる物語でした。
こんな素晴らしい作品の存在に、
今まで気づかずに過ごしていました。
反省しています。
ぜひ中学生に読んでほしい一冊です。

(2018.11.24)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA